京都府木津川市にある真言律宗のお寺、小田原山
浄瑠璃寺の本堂(九体阿弥陀堂)内には、9体の阿弥陀如来像が横一列にずらっと並んでいることから、「九体寺」ともよばれています。
9体の阿弥陀を並べる形式は平安時代に流行ったもの。
当時このようなお堂は京都を中心に数十あったのですが、戦乱や災害で焼けてしまい、今ではこの浄瑠璃寺が唯一の遺構なのです。
浄瑠璃寺は創建当初、薬師如来を本尊とするお寺だったのですが、九体阿弥陀が後から祀られて本尊となり、こちらの方が有名になっています。
そんな浄瑠璃寺を一言で表すならば浄土の世界観を表現したお寺です。
浄土の世界観とはどういうことなのか?
そのあたりを説明しながら境内を紹介します。
薬師如来の浄瑠璃浄土と、阿弥陀如来の極楽浄土
仏教には、
仏や菩薩が住む世界で、煩悩やけがれ、苦しみがなく、清浄で清涼な世界
まさに理想郷ですね。
浄土はいくつかあるのですが、浄瑠璃寺が関係するところでは、
- 浄瑠璃浄土(東方浄土)・・・薬師如来がいらっしゃる東の浄土
- 極楽浄土(西方浄土)・・・阿弥陀如来がいらっしゃる西の浄土
があります。
特に「極楽浄土」は、誰もが聞いたことはあるほど有名ですよね。
浄土に対して、人間の居る世界は
凡夫が住む世界で、現世のこと。煩悩や苦しみから抜けらず、けがれの多い世界
私たちは普通、長い人生、楽しいこともあれば苦しいこともあると考えますが、苦しいことがあるのは穢土に住んでいるからなんですね。
人間は死ぬとまた穢土に生まれます。
悩みや苦しみを経験しながら人生を送っては死んでいきます。
そしてまた穢土に生まれ・・・
このようなことを繰り返しています。
その繰り返しを輪廻転生といいます。
「生まれ変わり」が信じられているのはそのためです。
そのような概念が知られる中、平安時代になって「来世こそは穢土ではなく浄土で生まれたい」と思う人が出てきました。
浄土で生まれれば、苦しみのない人生を送ることができます。
では、どうすれば浄土に生まれることができるのか?
そこで広まったのが浄土思想です。
浄土思想では、
「阿弥陀如来を信仰していれば、亡くなった時に阿弥陀如来が迎えにきて(来迎)、来世は極楽浄土に生まれ変わらせてくれる(往生)」
と考えたのです。
「
これを唱えることで、阿弥陀仏への帰依を表明することになります。
そうすると、自分が死んだら阿弥陀如来が迎えに来てくれるというわけです。
その思想が流行ったことから、「浄土」と言えば、たくさんある浄土の中でも「極楽浄土」のことを指すようになりました。
私たちが「極楽」というと「過ごしやすい場所」とイメージできるのは、そこにあるんですね。
浄瑠璃寺の境内は、その浄土思想を体現するかのように設計されています。
こちらが境内図。
図は浄瑠璃寺のパンフレットからお借りしました^^
東側には薬師如来のいる三重塔、西には阿弥陀如来のいる本堂があります。
これが、浄瑠璃浄土と極楽浄土を表しているわけです。
彼岸にある極楽浄土
境内図には「
「彼岸」は、私たちがよく知っている「お彼岸」のことです。
日本では、お彼岸に先祖を供養する風習がありますが、「彼岸」という言葉はそもそも仏教に由来し、
「煩悩を脱し、悟りの境地に到達する」
という意味があります。
また、
「向こう岸(彼の岸)」
という意味もあり、2つの意味を合わせると、はるか彼方にある浄土のことを指します。
なので浄瑠璃寺では、此岸から池の向こう岸(彼岸)に阿弥陀如来のいる本堂が見えるようになっています。
ちなみに、お彼岸の時期は夕陽が真西に沈みます。
というより、夕陽が真西に沈む時期にお彼岸の行事を合わせているんですね。
それは極楽浄土が、沈む夕陽のさらに向こう側(彼岸)にあるからです。
真西に沈む夕陽に浄土への思いを馳せて拝んでいたのが、先に浄土へ往生した先祖を偲ぶようになり、先祖供養の行事へと繋がっていくわけです。
「此岸」は「彼岸」対する言葉で、私たちが住んでいる、煩悩に満ちた世界。
冒頭で説明した「穢土」のことです。
浄瑠璃寺の境内図を見ると、私たちの住む穢土(此岸)の横に池があり、池の向こう側(彼岸)に阿弥陀如来のいる極楽浄土があります。
まさに浄土の世界を描いた浄土式庭園になっているのです。
此岸にある浄瑠璃浄土
境内図を見ると、薬師如来のいる三重塔は、此岸にあるように見えます。
実際、此岸から陸続きで三重塔に繋がっているんですね。
本来は、浄瑠璃浄土も東方の彼方(彼岸)にあるはず。
ここでは、浄瑠璃浄土が此岸にあるのではなく、薬師如来が此岸にいらしている、と考えた方が良いのかもしれません。
薬師如来は、過去の因縁から続く現世の苦悩を取り除いてくれる仏様です。
つまり、現世利益の仏様なんですね。
人々の現世利益の願いを叶えるには、現世にいなければなりません。
また薬師如来には、現世の苦悩を取り除いた後、未来(来世)へ送り出す仏(遺送仏)、という位置づけがあります。
それに対して阿弥陀如来は、来世(浄土)から迎えに来てくれる仏(来迎仏)です。
浄瑠璃寺のおススメ礼拝順序
上で説明したような、阿弥陀如来と薬師如来の役割関係があることから、浄瑠璃寺にはおススメの参拝順序があります。
説明のために再び境内図を掲載します。
北側にある山門が入口です。
おススメの礼拝順序は
- 東側の三重塔に行き、薬師如来に苦悩の救済を願う
- 三重の塔の前で振り返り、池越しにある本堂の阿弥陀仏に来迎を願う
です。
これが浄瑠璃寺の本来の礼拝順序とされています。
まずはお薬師さんのいらっしゃる三重塔へ。
ここでは、
「薬師如来様、今の苦しみを取り除き、西方浄土に行かせてください!」
とお願いをします。
お薬師さんへの参拝を済ませたらそのまま振り返ります。
彼岸にある極楽浄土が眺められる風景になっています。
ここから池越しの阿弥陀さんに、
「阿弥陀如来様、私が死ぬ時はお迎えよろしくお願いします♪」
と祈願します。
順番としてはこのような感じですが、私たちが現世で生きている間は、正しい生き方をする必要があります。
正しい生き方とは、仏教を開いた釈迦の教えに従うということです。
送り迎えは仏さまにお任せしながらも、自分は自分で頑張らないといけないということですね^^;
阿弥陀如来の迎え方には9種類のランクがある!
「阿弥陀如来にお願いしたからこれでひと安心♪」
と考えるにはまだ早いです!
実は、阿弥陀如来の来迎の仕方には9つのパターンがあります!
(「観無量寿経」という経典に記載)
生前にどのような行為を行ってきたかによって9つの等級に分けられるんですね。
そのパターンのことを、
九品往生は、まずは上品、中品、下品の3品にわけで、さらにそれぞれの品の中で上生、中生、下生の3つに分けます。
龍光山正宝院のサイトに分かりやすく書かれていましたので、表を引用させてもらいました。
じょうぼんじょうしょう 上品上生 |
生前なんらかの善業をした人 | 大乗を修める人 | 僧侶がお経を読んでいるところへ、仏・菩薩・飛天など大勢で迎えに来る。 |
---|---|---|---|
じょうぼんちゅうしょう 上品中生 |
僧侶がお経を読んでいるところへ、上品上生より小編成で迎えに来る。 | ||
じょうぼんげしょう 上品下生 |
上品中生より、さらに小編成で迎えに来る。 | ||
ちゅうぼんじょうしょう 中品上生 |
小乗を修める人 | 僧侶がお経を読んでいるところへ、上品下生より小編成で、三名の導くための別グループが付属した形で迎えに来る。 | |
ちゅうぼんちゅうしょう 中品中生 |
導くためのグループだけで迎えに来る。 | ||
ちゅうぼんげしょう 中品下生 |
一般的な善を行う人 | 中品中生にほぼ同じ。 | |
げぼんじょうしょう 下品上生 |
善業をせず悪をなした人 | 身勝手な人 | 僧侶がお経を読んでいるところへ、三尊仏が迎えに来る。 |
げぼんちゅうしょう 下品中生 |
仏・菩薩が迎えに来る。 | ||
げぼんげしょう 下品下生 |
特に迎えのものは来ない。 |
上のランクに行くほど、たくさんの仏がたくさんの楽器を持って、華やかに迎えに来てくれます。
上品上生の場合、大勢でかつ急いできてくれるので「早来迎」ともいわれています。
まさにVIP待遇ですね^^
逆に、ランクが低いとなかなか来てくれません。
来るのも時間がかかったりしますし、その間は往生出来ないのです^^;
なので生前にどれだけ善を積むのか、どれだけ念仏を唱え、修行をし、仏に帰依するのかも問われているわけですね^^
来迎の様子を詳しく知りたいのなら、宇治の平等院鳳凰堂に行くと良いと思います。
平等院も浄土式庭園の形をとっていて、鳳凰堂は阿弥陀如来の周りにお供の雲中供養菩薩が飛び回っている様子が形になったお堂になっています。
来迎図も見ることができますよ^^
唯一残る九体阿弥陀堂
浄瑠璃寺の本堂は横長になっている珍しい形です。
ここには、「九品往生」にちなんで九体の阿弥陀如来が横一列に祀られていて、「九体阿弥陀堂」と呼ばれています。
またまたパンフレットから写真をお借りしました^^
九体阿弥陀の信仰が盛んになったのは、平安時代に恐れられた末法思想の影響です。
末法思想をベースにして生まれたものはたくさんあります。末法思想はどういうもので、何を生み出したのか?について紹介します。
その頃は他にも九体阿弥陀が祀られたのですが、室町時代の応仁の乱や、戦国時代の戦乱などでほとんどがなくなってしまいました。
唯一、塔・堂・仏像が昔のまま残っているのが浄瑠璃寺なのです。
なので、浄瑠璃寺の本堂、九体の阿弥陀坐像、そして一緒に祀られている四天王立像は国宝に指定されています。
本堂内部は、一体一体の阿弥陀像を柱で区切るように設計されていて、扉がそれぞれの阿弥陀の前にあります。
本来このお堂は、人が中に入るようには作られておらず、外から拝むものだったそうです。
御朱印
九体阿弥陀の御朱印です。
"九本仏"と書かれています。
続いて、西国薬師四十九霊場 第三十七番の御朱印です。
浄瑠璃寺では仏塔古寺第10番(阿弥陀如来)、関西花の寺第16番(九体仏)の霊場でもありますので、その御朱印も貰えます。
浄瑠璃寺の周辺は
結構な広範囲に散在しているのですが、浄瑠璃寺から
とはいえ山の中なので、散策するなら歩きやすい服装と、ガイドマップは持った方が良いですね。
大して舗装されていない道を歩くこともあるので、ガイドを見ないと、見逃してしまったり、方向も分かりません^^;
(スマホでgoogleマップではダメでした。山道は表示されません)
私はこちらを手にして、浄瑠璃寺 奥の院の方だけ行きました。
あと、浄瑠璃寺本堂の入堂受付でも、「当尾を守る会」が発行する「当尾の石仏マップ」が100円で売られています。
石仏の解説は上の本が、そしてマップはこちらの方が便利ですね。