(画像:大阪市立美術館・ボストン美術館展で購入したポストカードより)
五大明王の一尊、
曼荼羅では不動明王を中心において四方の方角を守護するのですが、大威徳明王はそのうち西を守ります。
仏教では、「西」という方角に極楽浄土があるとされているので、そこの主である阿弥陀如来が知られていますが、大威徳明王もやはり阿弥陀如来と関わりがあるんですね。
それには、密教の概念である
三輪身は、一人の仏が教えを説くにあたって、その人に教えが伝わりやすい姿になって現れる、というものです。
人に何かを教える時、伝わる人、なかなか伝わらない人、そもそも聞こうとしない人などがいますが、きちんと伝えるには、その人に合う教え方が必要ですよね。
それと同じようなものです。
大きく分けて3つの姿になるので、「三輪身」と呼ばれているんです。
以下の3つです。
自性輪身 :宇宙の真理、悟りの境地そのものを体現した姿(如来の姿)正法輪身 :宇宙の真理、悟りの境地をそのまま平易に説く姿(菩薩の姿)教令輪身 :煩悩を抱える最も救い難い衆生をも力ずくで救う忿怒の姿(明王の姿)
つまり、阿弥陀如来が自性輪身の場合、その正法輪身は文殊菩薩で、教令輪身は大威徳明王になるのです。
大威徳明王は文殊菩薩や阿弥陀如来の化身ということですね^^
チベットでも大威徳明王を文殊の化身と考えていて、顔の上に文殊菩薩の顔がある仏像があります。
「大威徳」という名前の由来
「大威徳」というのは、梵名の「ヤマーンタカ」からきているのですが、これは「ヤマ」と「アンタカ」に分かれます。
「ヤマ」というのは、ヒンドゥー教のヴェーダ聖典で死の神のこと。
日本でいうと閻魔大王みたいなものですね^^
「アンタカ」は「終わりをもたらす」という意味で、これらから「死の神を倒すもの」という意味になります。
そこから「大きな威力の特性をもつもの」に発展し、「大威徳」という名前が付いています。
大威徳明王の特徴
大威徳明王の特徴は、まず1つ目に水牛に乗っているということ。
そして2つ目は六面・六臂・六足の姿をしている(このことから「六足尊」とも呼ばれている)ということが挙げられます。
足がたくさんあるのは、日本では珍しいですね^^
1つ目の水牛に関しては、チベット密教に「牛になった修行者」という伝説が伝わっています。
ある修行者が、長年の修行の結果、まさに成満の日を迎えようとしていました。
そこに盗人がやってきて、盗んできた牛の首をはねてしまいます。
更に、それを見ていた修行者を、彼の懇願も聞き入れずに、殺して首をはねてしまいました。
修行の完成を目前にして殺害された彼の怨念はすさまじく、死体は落ちていた牛の首をつけ、盗人たちを皆殺しにしたのみにならず、血を染めて次々に人々を襲いました。
そこで人々は文殊菩薩に哀願し、文殊はその忿怒相を現わしてヤマ(修行者の怨霊)を打ち滅ぼしました。
このような話があることから、チベットでは大徳明王は文殊菩薩の化身と考えられていることがわかりますし、水牛とも関わりがあることがわかりますね^^
ちなみに、「西遊記」に出てくる牛魔王は、大威徳明王(ヤマーンタカ)がモデルといわれています。
そして大威徳明王の二つ目の特徴、六面・六臂・六足ですが、「6」という数字がたくさん出てきます。
いろいろな説はありますが、意味があります。
まず六面(6つの顔)ですが、これは、この世に生きるものが生と死を何 度も繰り返しながらさまよい続ける6種類の世界、六道(天上、人間、修羅、畜生、餓鬼、地獄)を見渡すためのもの。
六臂(6本の腕)は、仏法を守護するために、矛や長剣等の武器を持つためのもの。
六足(6本の足)は、生きたまま仏の境涯に到るための六つの修行、六波羅蜜(布施、自戒、忍辱、精進、禅定、智慧)を行い続ける決意を表しています。
三輪身の話をしましたが、京都の東寺にある空海作の立体曼陀羅は、三輪身説に基づいてグループに分かれています。
中央に如来グループ(自性輪身)、その右側に菩薩グループ(正法輪身)、左側に明王グループ(教令輪身)となっています。
そのような意味を考えながら拝観すると、仏の教えに触れるような気持ちもついてくるので、興味深く拝観出来ますよ^^