京都山科にある毘沙門堂は、天台宗の門跡寺院の一つです。
創建は大宝三年(703)、文武天皇の勅願で僧侶の行基が建てたと伝わっています。
その時の寺名は出雲寺。
場所も、京都御所の北、現在の上御霊神社付近にありました。
それからお寺の合併や戦乱による荒廃などがありましたが、江戸時代に徳川家康とも関係の深かった天海が、幕府から山科に寺領を頂き、現在の地に毘沙門堂として再建されます。
その後、後西天皇皇子の公弁法親王が入寺するのですが、それ以来、皇族・貴族が住持を務める門跡寺院となっています。
宸殿にある狩野益信作「動く襖絵」や霊殿の狩野主信作「天龍図」などのトリックアートが知られているほか、桜や紅葉のきれいな場所としても有名です。
毘沙門堂のある山科は京都市の中でも東側、京都駅からJRで一駅のところにあります。
北が比叡山、西が東山、東が音羽山、という山々に囲まれた盆地になっていて、山科駅から徒歩で北へ20分ほど、山の麓に毘沙門堂があります。
毘沙門堂の紅葉
毘沙門堂を訪れたのは2015年12月5日。
2015年の11月は雨が多くて、京都の紅葉はイマイチな年でした^^;
「もみじの永観堂」と呼ばれるほどの名所、永観堂もこの通り。
⇒2015年、永観堂の紅葉を見に行きました。
永観堂は本来、もっとすごいんです!
でも今年に限っては、紅葉は雨で散ってしまったものが多く、雨があがっても曇りがちなので、写真映えもしませんでした^^;
そういう11月を終えて、12月に見ごろを迎えた毘沙門堂です。
こちらは入り口。
紅葉は若干落ち始めている感じですね^^;
ピークど真ん中に訪れるのはなかなか難しいのですが、所々に綺麗なところもありました。
毘沙門堂の本殿と霊殿の間にあるグラデーションのきれいなスポット。
一番奥にある回遊式庭園の晩翠園。
勅使門に繋がる石段の参道には、度々ポスターにも使われる散り紅葉が見られます。
ポスターではこの階段一面が紅葉で敷き詰められているのですが、もしかしたら朝早ければ見れるのかもしれませんね^^
小さいのに霊験あらたか!最澄ご自作の毘沙門天
毘沙門堂のご本尊は、その名の通り毘沙門天です。
四天王の一人で戦いの神様なのですが、七福神の一人にも数えられています。
上の絵馬は虎に乗った姿で描かれていますが、虎は毘沙門天の使いとされています。
毘沙門堂の毘沙門天は、比叡山延暦寺の根本中堂の薬師如来と同じ木で彫られたという、約7cmほどの小さな仏様。
しかし、伝教大師 最澄が自ら彫ったという、霊験あらたかな仏様なのです。
残念ながら秘仏で、330年に一度しか御開帳されません。
しかも、数十年前に一度御開帳されたというので、もう見ることはできませんね^^;
特別御開帳があることを期待したいです。
山科駅から住宅街を歩くこと15分、山の麓まできたところに毘沙門堂の入り口があります。
境内に入ってすぐ、境内が山腹になっていることがわかる急な階段。
階段の上には仁王門。
真ん中につられている提灯には、天皇家の菊の御紋も見えます。
仁王門をくぐると、鮮やかな唐門。
すぐ後ろには本殿があります。
唐門をくぐったところに拝観受付があります。
本殿の外からの参拝は無料でできますが、本殿に上がってお参りしたり、龍の天井画や動く襖絵、回遊式庭園の晩翠園を拝観するならここで料金を支払います。
こちらが本殿。
装飾や朱の色が鮮やかです。
本堂は唐門との距離が近いので、正面から全体を眺めるのは難しいのですが、横から見ると鮮やかさがわかります。
毘沙門堂は徳川家の後ろ盾があって、諸堂を再建することができたお寺なのですが、財力のある将軍家をバックボーンにしているだけあって、豪華に造られているんです。
例えば、本殿内陣にある板の間には、赤漆で塗られているのが確認できます。
赤漆というのは贅沢品でして、普通の寺院では使うことができませんからね^^
扁額には、前身寺院である出雲寺の名前が書かれています。
出雲寺から続く法灯が未だ途絶えていないと意思表明しているようですね^^
お堂に入ると毘沙門天が立っているのですが、それはあくまで秘仏の代わりに立てられた「お前立」というもの。
本物はその後ろにある宝塔の中に安置されています。
堂内は写真撮影禁止なのですが、毘沙門堂の公式サイトにお前立ちの写真が掲載されています。
公式サイト⇒毘沙門天お前立
宝塔の中には御本尊、毘沙門天の妻「吉祥天」と、その子「善膩師童子」も合わせて安置されているそうです。
殿内の撮影は禁止なので、仏像や宝塔の写真はありませんが、7cmの尊像を納めるには余りにも大きく立派な宝塔でした。
そして、ご本尊と関係のあるお札がこちら。
このお札は「むかで札」という、毘沙門堂独特のお札です。
真ん中には「毘沙門堂」という文字、両脇になにやら虫のようなものが描かれていますね^^;
毘沙門天の使いは虎だけではありません。
実は、ムカデも毘沙門天の使いとされているのです。
むかで札は、毘沙門堂古来より伝わるというお札で、玄関の上に貼るものなのだそうですが、そうするとムカデが良い運気を取り込んで来てくれるのだそうです。
特に御利益があるのは金運です。
100本の足でお金をかき集めるのだとか。
また、悪い虫が寄ってこないという、虫封じのお札でもあるそうです。
これは毘沙門堂独特のお札ですので、興味のある方は拝観受付で購入できます。
じっくり変化を味わいたいトリックアート!「八方睨みの龍」と「動く襖絵」
毘沙門堂は境内拝観無料で、本殿と霊殿、宸殿は拝観料が必要です。
そこには何があるのでしょうか?
実は、霊殿と宸殿は江戸時代の宮廷画家、狩野派絵師によるトリックアートの宝庫になっているんです!
天皇家の方々が滞在される間として使われる宸殿にはいくつか部屋があるのですが、そこは天皇家の方々が、お客さんとお話をされる場となるので、襖絵には立派なものが描かれています。
狩野派絵師、狩野益信が描いたのですが、どのようにしておもてなししようか考えました。
そして逆遠近法という技法を編み出したのです。
そのようにして描いた襖絵が、動く襖絵です。
毘沙門堂で頂いたリーフレットより写真をお借りします。
※画像:毘沙門堂のリーフレットより
このような襖絵が部屋中にびっしりと描かれています。
上の襖絵は、変化の様子が一番わかりやすい襖絵なのですが、右から左へ移動しながら見ると、テーブルの長さが変わります。
動く襖絵は、中国の故事に由来するような題材が色々と描かれているのですが、襖絵1枚1枚の中でどこかに逆遠近法が使われています。
机の形が変わる以外にも、人物の顔の向きが変わる、雪が積もっていたのに何も無くなる、と変化する場面がユニークなんです。
間違い探しのように注意してみないと変化する場所はわかりにくいのですが、1枚の襖絵の前で行ったり来たり、次の襖絵に移ってはまた行ったり来たり、そうやって楽しんでいるうちにいつの間にか時間が経ってしまいます^^
霊殿には天井に狩野主信作の龍の絵が描かれています。
別名八方睨みの龍と呼ばれていて、こちらも、同じ技法を使っています。
※画像:毘沙門堂のリーフレットより
歩きながら龍の顔を眺めていると、眼がついてくるのです!
どの方向から見ても、自分を睨んでいるように見える龍。
見る方向が変われば顔の角度も変わり、鼻の長さが長くなったり短くなったりと変化します。
今は真ん中に山笠が吊るされているので、全方向から見ることはできませんが、それでも顔が変化する様子が確認できました。
霊殿の中央奥には阿弥陀如来がいらっしゃって、歴代の天皇家の位牌も安置されています。
つまり霊殿は、極楽浄土を表しているのですが、この龍はその守護龍として描かれたもの。
阿弥陀如来と歴代天皇家のガードマンとしてふさわしい龍ですね^^
さらに宸殿には、狩野派による逆遠近法に影響され、その技法を学びに来た丸山応挙が、技術を習得した後に、寺に御礼として置いていったという、鯉の絵もありました。
※画像:毘沙門堂のリーフレットより
こちらは見る角度によって鯉がこちらについてくるように泳ぐんです^^
動く襖絵よりもわかりやすい仕上がりになっています。
江戸時代に生まれたトリックアート、気になる方は毘沙門堂へ足を運んでみてください。
京都流の親切?クイズの答えに気付かないと帰れない部屋の謎
宸殿にある部屋の中に、天皇さんに会う為の待合室となる部屋が2部屋あります。
白鷺之間と梅之間です。
実はこの二部屋には、あるヒミツが隠されています。
「白鷺之間」に通された方は天皇家の方々にお会いできますが、「梅之間」に通された方は、会うことはかなわないのです。
会うことができるかできないか、決して直接言われることはありません。
部屋に通された時点で、自分で察するしかないのです。
それに気づくヒントは、部屋の襖絵にあります。
「会える間」である「白鷺之間」には、竹に雀、梅にウグイスが描かれています。
これは画題としては一般的。
しかし、「会えない間」である「梅之間」には、竹に島ヒヨドリ、梅に山鳥が描かれているのです。
これは常識から外れているんですね。
これが何を意味するのか?そこにはシャレが使われています^^;
「鳥」が「会わない」。
つまり「取り合わない」とメッセージを発しているんです><
竹に雀、梅にウグイスという組み合わせが常識、と言われても、ちょっと分かりにくいですよね。
でも、天皇家に会いに来る方は学識が高い人が多かったので、そういう人たちにとっては常識なのです。
というわけで、梅之間の最大な特徴は、襖絵の意図するものに早く気付くか、気付かないか。
それがポイントになってきます。
鳥が木と合っていないことに気づき、そこに意図するメッセージに気づけば、「今日はお会いしてもらえないんだな~」と気づき、帰っていきます。
逆に言えば、口頭で取り合わないことは言ってもらえないのです。
本来なら口で伝えるのですがが、こちらにこられるのは格式の高い方、気難しい方ばかり。
直接お断りするのは叶わなかったので、このようにやんわりと断りのメッセージを送り続けているのです。
これは直接的な物言いをしないようにするための、京都人の思いやりなんですよね^^;
でもよその人からすれば、いじわるに思えるでしょうね^^;
梅之間からは、綺麗に整えられた回遊式庭園の晩翠園が見えます。
「きれいだな~」なんて庭ばかり眺めていると、このメッセージに気づかず、いつまでも待たなければなりません^^;
毘沙門堂から徒歩1分!紅葉の穴場、山科聖天
毘沙門堂の本殿から西へ、駐車場やお茶屋さん「多門閣」方面に行くと、毘沙門堂の山内寺院護法山 双林院があります。
通称山科聖天と呼ばれ、毘沙門堂からほんの1分ほど、非常に近いところにあります。
ここは小さなお寺ですし、奥まっていることもあって、毘沙門堂と比べてあまり参拝客が来ていなかったのですが、なかなか穴場の紅葉スポットです^^
双林院では、毘沙門堂が門跡寺院になるきっかけとなった公弁法親王の念持仏「大聖歓喜天」を祀っています。
いわゆる聖天さまなのですが、ここでは通称
入ってすぐ横にあるお堂が聖天さまを祀る聖天堂。
聖天さまは大根がお好きなので、提灯にも大根が描かれています。
大聖歓喜天は、十一面観音菩薩と大日如来が力を合わせ「大自在天」として化身して出現されたものです。
そのお姿は、頭が象なのに体は人間、そして二体が向き合って抱き合う「男女合体神」なのです。
インドから来た密教系の神様なのですが、元々インドでは「ガネーシャ」と呼ばれていました。
その呼び名の方が有名かもしれませんね^^
聖天さまは、あまりにもパワーが強い神様なので、秘仏と扱われることが一般的。
もちろん、山科の聖天さまも秘仏となっています。
とにかく多くの現世利益をもたらしてくれるのですが、不浄を嫌う神様なので、清潔にしていないと厳罰が下るそうです。
さらには、祈願した時にした約束を破ると、命を取られるという話も><
聖天堂には御本尊の大聖歓喜天のほか、武田信玄や源勝政が奉納した聖天像など、80体が祀られています。
1体だけでもパワーが強いのに、80体もいらっしゃるすごいところですので、心してお祈りしたいですね^^
そしてもう一つあるお堂が不動明王を祀る不動堂。
後ろの紅葉がきれいですね^^
不動堂の後ろには、お滝不動さんがいらっしゃいます。
水が常に落ちているので、直接お不動さんの写真は手を伸ばして撮りました^^;
なので直接お参りすることはできません。
滝行を行う場所なのでしょうね。
毘沙門堂の御朱印
毘沙門堂の御朱印です。
毘沙門堂は紅葉が有名ですが、春の桜も有名です。
宸殿の前には立派な桜の木があるんですよね^^
今度は春に来てみたいです。