神泉苑

二条城のすぐ南側にある神泉苑。
桓武天皇によって平安京が造営された時、天皇家の御苑として造られた庭園です。

このあたりは湿地帯だったのですが、なかでもこの地はどんな日照り続きでも枯れることなく、常に清泉が湧き出ている不思議な場所でした。
そのような地形を利用して、池を中心とした庭園が造られたのです。

かつての規模は広大で、現在の十五倍ほど。
大池のほか、泉、小川、小山、森林などを有した庭園で、歴代の天皇や貴族が船遊したり、行事や宴を開いたりしていたそうです。

その後は戦乱などで貴族の力が弱まると荒廃し、二条城築城の際に、お堀の造営に伴って縮小され現在の規模になりました。

神泉苑は当初はそのような場所だったのですが、空海の祈雨伝説や、疫病から都を守るために行われた御霊会(祇園祭の発祥)、源義経と静御前の出会いなど、様々な伝承が伝わる場所でもあります。

神泉苑の歴史:空海が法力で雨を降らせた祈雨伝説

神泉苑

神泉苑の入り口には鳥居が立っています。
神様も祀っていますし、神社なのかと思えば、実は東寺真言宗の寺院なんです。

東寺は、弘法大師 空海が開いたお寺なのですが、神泉苑が東寺真言宗になった理由は、空海の雨乞い伝説が関係しています。

昔、平安京の入り口には東寺と西寺の二つのお寺がありました。
平城京時代に、仏教が政治的に圧力を加えてくることを嫌っていた桓武天皇は、平安京内での寺院建立を認めない方針でした。
その中で例外的に認められたのが東寺と西寺です。

そういう理由からも天皇から信頼のおける人物が住職を務めていたと考えられるのですが、東寺は空海、西寺は守敏が任されていました。

弘仁十五年(824年)、京都は干ばつが続き、苦しんでいたので、二人は雨乞い祈祷をするように命じられます。
どちらの法力が優れているのか、術比べです。

最初に守敏が祈祷。
守敏はなんとか少しだけ降らすことができました。

次に空海。
しかし、空海の祈祷では雨が全く降りません。

空海がその原因を追究すると、なんと、空海の法力にはかなわないと考えていた守敏が、水の神である龍神を封じ込めていたのです。

そこで空海は、インドの天竺から善女龍王(ぜんにょりゅうおう)という龍神を呼び寄せました。
すると、たちまちに大雨になったのです。

空海の祈雨伝説はこのような話ですが、その時に呼び寄せたという善女龍王は、現在も神泉苑にお住まいになられています。

祀られているのは、神泉苑のど真ん中。
善女龍王社です。

善女龍王社

こちらは拝殿。

善女龍王社

その奥に本殿があります。
そこが池の中央あたりになっています。

善女龍王社

神泉苑は、祇園祭の発祥の地

祇園祭

京都を代表するお祭、祇園祭。
京の人々は祇園祭で夏を感じ、特別なしつらえ、装い、鱧料理などの食でハレの日を飾ります。

そのような特別な祭となっている祇園祭は八坂神社の祭礼として行われるのですが、その起源はこの神泉苑にあります。

平安時代の貞観五年(863年)、朝廷はこの地で、都に蔓延する疫病の退散を祈る祇園御霊会(ぎおんごりょうえ)を行いました。

これが祇園祭の起源といわれています。

「御霊会」というのは、平安時代に流行した御霊信仰に基づいた儀式です。

当時、非業の死を遂げた人物は死してなお怨念を持ち続け、やがて怨霊となり、自然災害を起こしたり疫病を流行したりさせて祟るようになる、と考えられていました。

日本に限らずだと思うのですが、歴史の表舞台ではあまり語られない、皇位継承や政略などで理不尽な仕打ちを受けて、せっかくの才能を発揮できずに死んでいった人物が結構いるんです。
疫病や自然災害が起こるたびに、朝廷は心当たりを探して恐れていたのでしょうね^^

「御霊信仰」は、そのような怨念を「悪霊」として倒すのではなく、「御霊」として神や守護霊のように祀ることでその魂を鎮めようというものです。
その具体的な鎮魂の儀式となるのが「御霊会」なんです。

御霊会を行うことで疫病や災害などの厄災から逃れようとしたわけですね。

そして神泉苑で行われた祇園御霊会は、記録に残っている日本で最初の御霊会なのです。

祇園御霊会が行われてから数年後、神泉苑では当時の国の数に準じた66本の鉾を立て、それに悪霊を集めて祓った、ということが伝わっています。
それが現在、祇園祭で巡行する山鉾に繋がっています。

御霊会という発想がない時代は、築き上げた都を遷都することで逃れようとしたこともありました。
長岡京が平安京に遷ったのも、早良親王の怨霊によるものとされています。

平安京に遷って以来、千年以上も遷都せずに落ち着いたのは、御霊会がうまれたからかもしれませんね^^

御霊会は、最初は朝廷の命で行われていたのですが、やがて町衆も参加して民間の信仰心も注がれるようになります。
それから時代が下るとともに規模がだんだんと大きくなり、空車、田楽、猿楽等も加わって、氏子たちの祈りと情熱が込められた町衆の祭として賑わうようになったのだそうです。

それが現在に続く、祇園祭なんですね。

怨霊についてはこちらの本のレビューでも書きました⇒奈良時代の怨霊、井上内親王、早良親王、藤原広嗣のことがわかる本

願い事が一つ叶う!源義経ゆかりの橋

神泉苑 法成橋

善女龍王社の横には、龍王社のある中島へ渡る赤い橋「法成橋(ほうじょうばし)」があります。

神泉苑 法成橋

この赤い橋には、源義経にまつわる伝承が伝わっています。

神泉苑の雨乞いの儀式をしたのは空海だけではありません。
日照りが続けばしばしば行われていました。

平安末期となる寿永元年(1182年)、後白河上皇は、雨乞いをするために白拍子を100人集めて、橋の上で舞いを躍らせたのです。

しかし99人まで舞うものの、雨は降りません。
最後の白拍子として踊ったのが静御前(しずかごぜん)です。
静御前が舞うと、たちまちに雨が降りました。

この静御前の舞に惚れてしまったのが、源義経。
つまり神泉苑は、静御前と源義経が最初に出会った場所でもあるのです。

この法成橋には、願いを一つだけ叶える力があるとされています。

願い事を思いながらこの橋を渡り、その先の善女龍王社にお参りすると、その願いが成就するのだそうです。

叶う願い事は一つだけですので、願い事は慎重に考えなけらばなりません^^
橋を渡る時、「神泉苑厄除け守護」のお守りを持って渡ると願い事の御利益が増すのだそうです。

神泉苑を正面から参拝すると帰るときに橋を渡りそうになります。
(実際、そのように渡っている人がちらほらいました^^;)

でも、お願い事をするなら赤い橋を渡って参拝するようにしましょう^^

日本で唯一、その年のよい方角を示す恵方社

恵方社

善女龍王社の前には、恵方社という歳徳神が祀られている社があります。

「恵方」というのは「恵方巻き」でわかるように、「縁起が良い方向」という意味があります。
そしてこの社は、毎年大晦日の午後十時半に、翌年の恵方の方角に正面を変えるのです!

こういう社は日本で唯一といいます。

私が訪れた時は平成27年で、西南西の方角を向いていました。

恵方社

お参りしにくいな~と思ったのですが、良い方角を示していらっしゃるので、頑張ってお参りしなければなりません^^

ちなみに平成28年は南南東になりますので、お参りしやすくなります^^

神泉苑平八 境内で味わえる京懐石のお店

京懐石 平八

神泉苑の境内には、なんと京懐石の料亭があります。
「神泉苑 平八」です。
外にはメニューが出ていました。

京懐石 平八

うどんちりが名物のようです。

神泉苑には、下の写真ような龍王船が浮いているのですが、実はこれも「平八」の船。

平八 龍王船

船の上でも料理を楽しむことができるようです。

平八では結婚式の披露宴の会場にもなるようなので、そういう時に使われるのでしょうね^^

神泉苑 観月会は、龍王船に乗ってお月見ができる

神泉苑では、9月の中秋の名月あたりにお月見イベント「観月会」が行われます。

観月会の日には、普段は入れない、神泉苑の北側のお庭が特別公開されます(10:00~20:00)。
そして18時から法要がはじまり、19時から善女龍王社の拝殿前で奉納演奏が行われます。

そしてなんと、先ほど紹介した平八の龍王船に乗ることもできるんです!
船ではお抹茶をいただけます。

まるで、かつて平安貴族が行ったお月見のようですね^^

ただし、龍王船の乗船はかなりの人気で、当日の15時半過ぎから150名分の当日券が販売されます。
それよりも前に並んでおかないと、売り切れてしまう可能性があります。

ちょっと大変ですが、幻想的なお月見を体験できますよ^^

神泉苑の御朱印

神泉苑には御朱印が二つあります。

まずは善女龍王殿の御朱印です。

神泉苑 善女龍王 御朱印

平安京延暦聖跡の御朱印です。

神泉苑 平安京延暦聖跡 御朱印

神泉苑にはオリジナル御朱印帳もあるようです。
私が訪れた時にはまだなかったのですが、その後にできたようです。
公式サイトのトップページに載っていました。⇒神泉苑公式ページ

また、観月会の時期には、観月会特別御朱印帳授与もされます。
黒地に菊紋の特別御朱印帳で、当日だけでなく、9月1日~10月中旬まで期間授与されます。
中には、善女龍王の扁額の御朱印、与謝蕪村の俳句の金墨御朱印、重陽節の銅墨御朱印が入っていて、お値段は2,500円です。


神泉苑の大祭「神泉苑祭」が5月2~4日に行われます。
今まではこの時に苑内の狂言堂で大念仏狂言が催されていたのですが、平成26年から、11月の第1金曜日から3日間に変更されています。

伝統ある念仏狂言なので、いつか見てみたいですね。

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