信楽焼で有名な、滋賀県甲賀市信楽町にあるミホミュージアム。
山の中にある自然豊かな美術館ですが、今ここで信仰の中の「かざり」にテーマを当てた「かざり-信仰と祭りのエネルギー」が行われています。

「かざり」というと、菩薩が身につけているアクセサリーや、社殿などの装飾を想像します。
そういう色々なデザインのかざりを集めているのかなあと思っていました。

でもこの展覧会のコンセプトは、「かざり」をキーワードに日本人の精神世界を紐解くということ。
その着眼点が面白いなあと思って、行ってみました^^

こちらがリーフレット。

ミホミュージアム

表紙を飾っているのは、伊藤若冲の「鳥獣花木図屏風」(上)、「樹花鳥獣図屏風」(下)です。

若冲作品の中でも異彩な作品で、8万個以上もあるという1cm各の桝目をひとつひとつ塗り込む「桝目描き」という斬新な手法で描かれています。
この2作品が同時公開されるのも1997年以来とのことで話題になっているんですね。

そしてこの作品も「かざり」ということになります。
何が「かざり」なのか?最初は分からなかったのですが、それは仏を荘厳することに功徳があるという考え方に繋がっていました。

パンフレットからお借りした、樹花鳥獣図屏風の右隻部分です。

ラクダやオランウータン、虎、豹、ニホンザル、ヤマアラシ、兎といった実在の動物の他、獅子や麒麟などの空想上の動物が描かれています。
ちなみに右隻には鳳凰を中心とした鳥類が描かれています。

上の屏風で一番目立つのは、仏教で神聖視されている白い象。
普賢菩薩が乗る六牙の白象で、象の背中に敷物が敷かれています。

また、釈迦誕生にも関係しています。
お釈迦様のお母さんである摩耶夫人が、ある日、六牙の白象が胎内に入る夢を見たのだそうで、その後お釈迦様を懐妊したという話があります。

そんな神聖な象の周りに花や木が生い茂り、動物達が描かれているんですね。

うさぎの後ろには虎がいるのですが、普通なら食べられてもおかしくないところ。
でもこの絵ではそういう様子はありません。
うさぎが落ち着いて座っているんです。

つまりここは、誰もが安心して暮らせる仏国土だということです。

この仏国土を描いた屏風を仏のそばに置くことで、仏の徳を示す「かざり」となるわけです。

「仏にすがれば、こんなに良い世界で暮らせるのか」と思うことができれば、仏にすがりたくなります。
それだけ人を惹きつけることができれば、それはものすごい魅力をもった「かざり」になりますよね^^

お次は、「洛中洛外図屏風」。

ネット上では小さくて、本物を見ないとわかりにくいのですが、祇園祭の神輿が三座、京の町を練り歩いている様子です。
洛中洛外図は、当時の人々の様子や衣装をじっくり見ることができる面白さがあるのですが、こちらも「かざり」というキーワードを当てはめると、新しい視点が見えます。

本来、「祭」というのは厳かに行われるものでした。
時代が進んで都市が出現する頃には、そんな祭りを見てみたい、という見物人が現れ、次第に見せる祭りである「祭礼」に変わっていきます。

祭りを行う側は「見られる」ということを前提に行うようになるのですが、有名な祭礼にもなると、威厳を保つためにも豪華絢爛になっていきます。
そして見物人が多いほど祭りが盛り上がりますし、それが神の威厳をより示すことになるので、見物人自体が「かざり」となるわけです。

そう考えると、この絵は三座の神輿を中心に、たくさんの物や人でかざられてる、と見ることができますね。


今回の展覧会では、展示品の技術的な部分よりも、「信仰」という抽象的な面から観覧してみましたが、そういう解釈をしてみるのもなかなか面白かったです。

お寺や神社にある装飾一つ一つも、仏や神々を荘厳するためにあれやこれやと新しい装飾が考えられてきたわけですから、今回のような解釈をすれば、あらためて作者の信仰の想いが込められていることを感じられるかもしれません^^

「かざり-信仰と祭りのエネルギー」は5月15日までです。